「誇りをもって仕事をする」とは?
「仕事にもっと誇りをもって取り組んでほしい」
先日、ある二次救急病院の看護部長が、会議の冒頭で看護スタッフに檄を飛ばすようにそう言いました。
病院の経営者や管理職の方の言葉として「誇りをもつ」というフレーズは頻繁に登場します。エンゲージメントやモチベーションの低さからそれを嘆く言葉として使われることもありますし、病院の発展、職員の成長を促す意味合いで発することもあります。「誇りをもって働ければやる気が醸成され、楽しく仕事に取り組めるし、離職も減ることだろう」という期待も込められていると思われます。
仕事に誇りを持って取り組む職員が増えれば、病院の発展や診療に良い影響を与えることは間違いないことだし、それは患者さんにとっても有難いことに違いありません。では、「誇り」はどうしたら芽生え、育つものなのでしょう。
「誇りを持って仕事をしてね」と諭され「はい」と思わず返事をしても、その瞬間から誇りが頭や身体に芽生えるということもないでしょう。「誇り」というのは、非常に抽象的な概念だからです。
医療現場のスタッフが誇りを抱くことができる環境とはどのようなものなのか。改めてそのメカニズムを検証してみたいと思います。
以前、地方の小規模病院に研修の仕事でうかがった時のことです。
看護師や薬剤師、栄養士などの医療実務者のみならず、清掃のスタッフや受付スタッフにおいても、とにかく、てきぱきと段取り良く動いているのがまず目に留まりました。事務長にそのことを伝えると、「ウチのスタッフは常に患者さんや家族の皆さんに見られていることを意識し、患者さんたちが気分の良い医療ケアを受けていただく工夫をしています」とこたえてくれました。「スタッフの一挙手一投足が患者さんに見られていることを認識し、困っている患者さんがいれば、どんな職種のスタッフであろうと積極的に声掛けをする」のが定着しているとのこと。さらに、「院長であろうと副院長であろうと、患者さんを見る目は同じ視線。管理者が一般職員を認め、スタッフ同士も認め合うことのできる環境・組織風土を創り上げることを何よりも最優先にしています」と続けて話してくれました。
目立たない仕事にも光を与え、地道にこつこつ仕事に取り組んでいる人を表彰したり、ほめられた人のみならず、人を積極的にほめた人にもインセンティブを与えるというような試みもしているとのこと。そうすることで、現場から多くの声が上がり、どのような職種・階層のスタッフからも「病院が良くなる」提案がたくさん上がってくるようになりましたと話してくれました。
自分が「認められている」と感じることで誰かの役に立っていると実感できれば、与えられている仕事の価値を自己評価でき、それによって仕事への誇りが芽生えるのではないのでしょうか。この病院の職員の働きぶりを見てそう感じました。周囲がその人の功績や行動を認めることによって、一人ひとりの職員の胸の内に誇りが芽生えたのでしょう。
自分が職場の同僚や上司から大切に扱われていると感じることが、誇りを持つことにつながると言えると思います。とすれば、誇りは一人で芽生えさせるよう努力するものではなく、人と人とのかかわりの中で少しずつ育っていくものであるとも言えそうです。
それでは、たとえば上司はどのような態度で部下に接すれば、部下の仕事に対する誇りは芽生えるのでしょうか。先に挙げた病院の事務長に聞いてみました。
「上司が部下の想いを感じ取る。そのような接し方をすれば良いと思います」
実にシンプルなこたえが返ってきました。シンプルではありますが的確なこたえだと思います。部下のやりたいことや想いに耳を傾けることで、お互いの間に信頼関係が生まれ、部下の自尊心が育ち、他のスタッフや組織への貢献意欲につながるのだと理解できます。
冒頭に会議で「誇りをもって欲しい」と発言した看護部長にも、上司として部下に誇りを持たせるためには、どのような接し方をするべきかを問うてみました。
「部下を均等に扱い、厳しくあっても大切に扱うことが、管理職である者の基本的な態度ではないでしょうか」とこたえてくれました。
私自身はどのような時に仕事に対する誇りが生まれるのか、と自問してみました。「(私と)話をして気持が楽になりました。明日からまた頑張れると思いました」と以前、若い看護師さんに言われたことがありました。その時に、私は自分の仕事に対する誇りを確かに感じたと思います。
皆さんはどのような時に仕事への誇りを感じますか?(医療コミュニケーション協会 須田)
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