なぜ、あの病院は患者さんの評判がいいのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

なぜ、あの病院は患者さんの評判がいいのか?

私立の医療機関では、「収益の増大」が経営基盤強化の源泉となりますので、「集患」は大きな経営課題となります。「患者様に選ばれる病院」といった紋切り型のテーゼは医療機関のウェブサイトには必ずといってよいほどの頻度で謳われていますし、患者さん中心の医療が実践されている様を、患者さんに寄り添うスタッフの写真などを掲載してそれらしく見せるというのが、ほとんどの病院のPRの常套手段となっているようです。
「他の病院ではなく、当院を選んでもらいたい」のなら、どんな病院でも謳っているようなテーゼではなく、「独自の言葉」でその想いを語ればよいと思うのですが、なぜか当たり障りのないフレーズの羅列に終始しているように見えます。ウェブサイトにしてもパンフレットにしても、こと「集患」を目的としたツールといった視点で捉えれば、多くの医療機関がその機能を十分に果たせていないと見る方が妥当でしょう。厳しい言葉で言えば、「お金の無駄遣い」と言いたくなるものもかなり多いように見受けられます。
一時、病院のブランド戦略が流行ったことがありました。医療はサービス業なのだから「患者さんではなく、患者様と呼ぼう」「廊下の真ん中を歩くのは医療関係者ではなく患者さん」「待合室の椅子は座りやすく快適なものに」等々、患者さんを顧客のように扱い、居心地の良い空間の演出にも目配せをする。それによって好感度を醸成し、「患者様に選ばれる病院」へのブランド化を図るというホスピタリティ重視の施策がさまざまな医療機関で実施されました。
こうした医療機関のブランド戦略の成功事例は、多くのフォロワーを惹きつけることになります。「あの病院のやっていることを真似てみよう」という発想になり、せっかく特化した差別化戦略で独自のブランド化が成功しても、数年たてばどの医療機関も同じようなことをやっているという事例は実に多く見受けられます。
また、最新鋭の医療機器を揃え、医療技術と豊富な知見を誇る医師やスタッフを揃え、「最高レベルの医療サービスを提供する」ことを「売り」にしている医療機関もあります。これも差別化、ブランド化の一つの戦略ではあるのでしょう。しかし、そのような高度なブランド化が実現できるのはほんの一握りの大病院だけです。

ブランド戦略の成功例として、地方のある小規模病院の事例を紹介します。
その病院(仮にA病院とします)は二次医療圏のごく普通の病院です。しかし、地元の人たちには圧倒的な好感度を示していて、悪い評判は一度たりとも聞いたことがありません。最新設備を備えているわけでもなく、高名な医師を揃えているわけでもなく、特化した診療科があるわけでもありません。しかし、A病院はいつも混雑していて、ゆえに待ち時間が長い。それでも、患者さんからの文句の声はまったく聞こえてきません。
そして、ここが重要なポイントなのですが、A病院はスタッフの離職率が圧倒的に低いのです。この数年の間で、出産などでやむを得ない場合を除いて、看護師の離職数はゼロに近いそうです。
A病院は、先鋭性を極めたような大病院のような革新的なブランド構築を行う代わりに、人材の採用に関してはかなり慎重に行います。たとえば、看護師の募集にしても、「以前、名のある大学病院の病棟勤務を経験した」「大学院を出て専門看護師として〇〇病院で経験を積んだ」といった華々しい経歴には目もくれません。A病院が働いてもらいたい看護師の条件は「気がいいかどうか」、ここに尽きます。患者さんに対して明朗で自然な笑顔で接することができるか。何か迷っている患者さんがいれば、「どうしました?」と気さくに声をかけることができるか。どんなに忙しくても患者さんの声に真摯に耳を傾けることができるか。こういった「やさしさの溢れた接遇」「こころのこもった接遇」ができる人かどうかで採用の有無が決まります。ですから、採用面接は数回にわたって行い、面接というよりコーチングやカウンセリングに近いもので、私も一度面接員として参加を要請されたことがあります。
看護師だけではなく、医師を含めた全スタッフに関し、「気がいいかどうか」が優先される採用基準になっていますので、そういったスタッフが行き渡っている病院全体が「気がいい空間」となります。「気がいい空間」とはすなわち「居心地の良い空間」とも言えます。患者さんが待ち時間の長さに苛立ちを示すのは、今自分が待たされているその空間が「居心地が悪い」からです。ところが、自分の家のような居心地さがキープできていれば、それほど待ち時間の長さは気にならないものです。
A病院のブランド戦略は、病院という「怖さを伴った非日常性」からの脱却にあります。そして、居心地のよい日常性をキープする方策は、「気のいいスタッフのあたたかな接遇」。これ1点です。スタッフの接遇にマニュアルは一切存在せず、発する言葉や態度の一つひとつが、患者さんにとって安心できるかどうか、そこがポイントになります。それは「技術」で身につけるものではなく、生来の「気の良さ」から自然に滲み出てくるものです。ですから、スタッフの採用には時間をかけ、その人全体の「人間性」を慎重に吟味して決めるのです。
「気のいい空間」を造り出すことは、それほど簡単にまねできるものではありません。ゆえに、A病院はこの点において他の病院と差別化が図られているのです。
(医療コミュニケーション協会 須田)

セミナーお申込み・お問い合わせ

公式ラインでも最新の情報をお届けしております。
友だち追加

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP