もし部署異動を命じられたら、あなたの「やりがい」は保てますか?②
今回のコラムは前回に引き続き、医療従事者の「やりがい」について考えていきたいと思います。病棟から外来への異動を命じられた看護師の場合を例にとり、本人の気持の変化、そして、異動先においてもやりがいを得るために、同僚や上司はどのような支援を行うべきかを見ていきます。
一部の病棟看護職員において、外来への異動を受け入れられない気持になることは十分に予想されます。「病棟での自分の存在を否定された気持」「外来異動になることへの懐疑的な気持」「病棟看護への心残り」「予想外の異動に対する驚きと不安」といった感情が兆し。その後に「葛藤」が生じ、どうにか気持の整理をつけて新しい部署に「慣れていこう」という意思を持つに至る心の変化によって、理不尽だと思っていた気持に折り合いをつける人が多いのではないでしょうか。
臨床心理学者のブリッジスは、人はキャリアの節目における大きな経験について、「終わり」「ニュートラルゾーン」「新たな始まり」という3段階のプロセスを経ていくと言っています。これまで信じていたものや思い込んできたもの、自分のあり方や世界観などが失われたと感じる「終わり」の時期。混乱したり苦悩したりしながら、新たな始まりに向けて気持を統合していく「ニュートラルゾーン」の時期。それらを経て、自分なりに新しい場に価値を見出し、「新たな始まり」として再出発していく時期。この3過程をたどるということで、新たなアイデンティティーを形成するに至るということです。しかし、ここで注意しなければならないのは、異動の内示を受けた看護師が「終わり」に向き合うことができないまま新しい職場に異動してしまうと、「新たな始まり」への心の準備ができず、異動後に職場不適応となり、それが離職へつながってしまうことです。このような事例は大変多く見られます。
よって、同僚や先輩・上司、それに新しい職場の職員(受け入れる側)は、異動する看護師が「終わり」に向けた「気持の整理」が行えるよう、「異動に対する気持の切り替え」や「新しい職場への期待」が持てるように支援することが必要になります。
病棟から外来へと異動した看護師は、新たな知識と技術の習得、継続看護への視点の切り替えなどを体現し、「外来に来たことによる、これまでと違った視野の広がり」「看護師としての成長の実感」を肯定的に感じ取れれば、自己効力感を高めることができます。そのためには、繰り返しますが、周囲のスタッフ、上司などからの「承認」が不可欠となります。ポジティブなフィードバックをもらえるような看護経験が、充足感や達成感に結びつくことは間違いありません。
異動を経験したAさんの気持の変化を見てみましょう。
「もう、業務命令なので、組織の人間として従うしかない」「そのうち、戻してもらえるかな・・・」まずは、そのような気持がありました。上述した「終わり」の実感部分です。そして、「今まで病棟でやってきたことが活かせるかな」と思い、「人と話すのが好きだったので、病棟よりもその点は充実できるかもしれない」と、ニュートラルゾーンに入り、「あなたの力を活かせる部署だと思うよ」という上司のアドバイスによって、「あらたな始まり」を意識するようになりました。そしてAさんは、いざ外来の仕事を始めるぞと力強く決心し、自分なりに馴染もうと努力をするようになります。
「外来は看護師だけではなく、クラークさんたちが半部以上いて、その人たちとの関係性がとても大事」「最初はわからないことが多いけれど、患者さんには挨拶だけはしっかりしよう」など、自分自身の意識改革・方法を模索し、時がたつにつれ、外来ならではの看護の神髄を学んでいきます。
時間の経過とともに、「患者さんの背景に目を向けると、誰もが独自の生活をしていて、病気に向き合いながら一生懸命に社会で生きていくことの大切さを外来に来てとても強く感じられた」という思いにかられ、「患者は患者である前に一人の生活者であるという実感は、病棟の時より強く感じられるようになりました、外来に来てそのことを強く真剣に感じるようになったというのは、自分にとってとても大きいことです」と、自信にあふれた表情で語ってくれます。
外来における患者さんとの関わりの中から、入院前後の患者さんと社会とのつながりがより明確に見えるようになり、「継続看護の視点の獲得」ができたとのことで、Aさんは「新たな始まり」を強く意識できるようになりました。今、Aさんは、病棟での経験も踏まえ、周囲の上司や医師たちと意見交換をしながら、よりよい「外来看護の探求」に取り組んでいます。(医療コミュニケーション協会 須田)


















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