男女の差、違いがくっきりと現れる医療現場
医療からは無縁の職場にいる人が「医療」のイメージを頭に描いたとき、医師の姿あるいは医師が働く職場を想い浮かべることが多いのではないでしょう。しかし、実際には医師や歯科医師は総数が少なく、医療機関の職員はその多くが事務職と看護師であって、この2職種の女性の割合が統計の上位を占めます。このように、医療機関は確かに女性の多い職場なのですが、院長・理事長・部長等その他管理職に男性が多い事は、統計を挙げずとも実感されると思います。たとえば病院のウェブサイト等を見ると、院長や診療科長のほとんどは男性です。この現実を見る限り、果たして女性職員のニーズを汲んだマネジメントが出来ているのだろうかとの疑問が浮かび上がってきます。
内閣府男女共同参画局が毎年作成している「男女共同参画白書 令和3年版:医療分野における女性の参画拡大」の中に、看護師と女性医師の復職支援やキャリア支援の重要性と、その施策の実例について述べられている箇所があります。「女性医師において、出産や育児又は介護などの制約の有無にかかわらず、その能力を正当に評価される環境を整備する必要がある。そのため、固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)がもたらす悪影響の除去及びハラスメントの防止、背景にある長時間労働の是正のための医師の働き方改革や主治医制の見直し、管理職へのイクボス研修等キャリア向上への取組を推進する」と表記されています。はて、「イクボス」とは?奇妙な言葉だと感じますが、「部下の育休取得や短時間勤務などがあっても、業務を滞りなく進めるために業務効率を上げ、仕事と私生活を両立できるように配慮し、自らも仕事とプライベートを充実させている管理職のこと」だそうです。「男性の育児参画や女性の就業継続の観点から『イクボス』を普及して行く事は非常に重要である」として、厚生労働省が企業等にイクボス導入を推進し、20年当時厚生労働大臣だった田村憲久氏自身もイクボス宣言を行っています。
さて、今回はジェンダーの問題を採り上げますが、組織に於けるジェンダーに関するステレオタイプ的な物言いは、「女性は感情的である」「男性は合理的である」と言ったものですが、その結果、男性には「合理的な管理者」としてのイメージが、女性にはそれを「情緒的にサポートする役」のイメージが付いて回ることになります。つまり、組織に於いて、女性は従属的・補助的な存在となり、構造上活躍出来なくなってしまうのです。又、女性が「情緒的である事を期待される職務」に配属される事で、人の話をより聞き、サポートしなければならない状況が持続します。その結果、「男性=話し手・主たる行為者(上位)」、「女性=聞き手・サポート役(下位)」という役割分担が益々強化されことになります。
また、男性看護師が増えにくい背景には、現在においても十分に解消されない「看護師=女性の仕事」という社会のジェンダーバイアスのほか、長期的なキャリアパスの描きづらさ、といった課題が潜んでいます。しかし、看護の現場では、男性の方が優位な仕事も少なくありませんので、医療の質を高める上でも、性別にとらわれず職業を選択できる社会の実現のためにも、性別を問わず多様な人材が活躍できる形へと進化することが望まれています。
看護師志望の男子学生が看護実習を受ける際に、一定の制限が存在するという声も聞かれます。たとえば、産科実習で出産に伴う乳房ケアを実践させてもらえない、出産に立ち会う場面で男子学生のみ室外に出される、といったケースですが、医療職である意識を持ってまじめに学んでいる学生にとっては、性別で学習機会が奪われることに戸惑いを感じてしまうことは想像に難くありません。さらには、男性看護師が使える更衣室やトイレが職場に完備されていない、という環境格差の問題も、医療機関によっては十分に解消されていないようです。職務と責任は男女同じであるにもかかわらず、男性看護師だけこういった環境下に置かれやすいことは、働くモチベーションを下げる要因になってしまわないでしょうか。
患者さんや家族とのコミュニケーションにおいて、男性看護師が関わることでスムーズに流れることもあるようです。たとえば、年配の男性患者は、女性看護師が指導をしてもなかなか聞き入れてもらえないことがあります。ところが、男性看護師が伝えると素直に受け入れるのです。これは「男性同士の共感」という面もあるのと同時に、社会に根付く、「家父長制」の考え方が、古い世代には色濃く残っているからでしょう。しかし、男性看護師の存在が助けになる一方で、女性側から「男なんだから、暴れる患者の対応をして」というジェンダーロール(性別に基づき期待される特定の行動や役割)の固定化が生まれる可能性もあります。
逆の観点で見れば、男性看護師によるおむつの取替えを拒否する高齢の女性患者さんも一定数います。そういう恥じらいの気持ちがある患者さんに、男性看護師が「ジェンダー平等だから私がやります」と対応するのが果たして正解なのだろうか、という点は、検討の余地があるだろうと思います。やはり、患者さん個々の希望や状況なども鑑みながら、どうすれば患者さんや家族、そして医療従者にとってベストなあり方なのかを一つひとつ判断していくことが肝心だと考えます。
(医療コミュニケーション協会 須田)



















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