女性医師のダブルバインド
個人的な見解ですが、この世の職業で最もダブルバインドを受けやすいのは、病院に勤務する女性医師なのではないかと思っています。ダブルバインドとは、矛盾する2つのメッセージ(期待)を同時に受け、どちらを選択しても否定的な評価や困難に直面する心理的・構造的な状況を指します。
医療現場では、ジェンダーバイアス(性別役割分業意識)と、従来の長時間労働・男社会的な医師のキャリアモデルが組み合わさることで、女性医師のキャリア形成やメンタルヘルスに多大な負荷をかけているように見えます。 具体的に検証していきましょう。
まず、最初に挙げられるのは、「 リーダーシップ」と「性別役割の期待」のダブルバインドです。 リーダーとしてのリーダーシップや主体性(男性的とされる)を求められる一方で、医師として優しさ、共感力(女性的とされる)も求められます。その結果、強く毅然と振る舞うと「威圧的」と評され、寄り添って優しく振る舞うと「能力が低い、またはリーダーシップがない」と評されということになります。
そして次に、「キャリア形成」と「家庭・育児の両立」のダブルバインドを挙げてみます。プロの医師として男性と同等の結果(深夜勤務、長時間労働)を求められる一方で、女性として家事・育児もこなすことを暗黙的に期待されます。育児・介護のために勤務を調整すると「責任感がない」と言われ、仕事に全力を尽くすと「家庭を顧みない」と言われます。
そして3番目に、コミュニケーションの課題、「受動性」と「積極性」のダブルバインドを挙げます。 謙虚さや協調性(女性らしさ)を期待されつつ、緊急時にアサーティブ(主張・提案)な行動も求められにもかかわらず、自分の意見を主張すると、「生意気、攻撃的」と見られ、逆に主張しないと、「やる気がない、受動的」と見られます。
以上の3つのケースのように、どちらを選んでも非難される状況は、高いストレス、燃え尽き症候群(バーンアウト)につながり、結果として女性医師がキャリアを諦める(離職・専門医取得の断念)原因となっているとの指摘もあります。
そのようにならないための対策としてまず重要なのは、「心理的安全性の確保」です。具体的には、①誰でも意見を言える職場環境の形成。②アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の排除、つまり、「女性だから」という決めつけをなくし、能力や成果で正当に評価すること。そして、③柔軟な働き方と評価制度の形成。④複数主治医制の導入。⑤院内保育の拡充など、ライフイベントとキャリアを両立できる制度の整備などです。
ダブルバインドは長期的には、精神的な健康問題にもつながる可能性があります。矛盾した要求に直面して行動に困り、自己否定感を抱きやすくなるのです。また、人間関係にも悪影響を及ぼします(溝を生じさせたり、信頼関係を壊したりすること)。女性医師のダブルバインドは、個人の能力不足や努力不足ではなく、伝統的な医療界の構造と社会的なジェンダー規範に起因するものです。これらに対処するためには、組織全体で評価基準を明確にし、多様な働き方を許容する体制改革が必要だと考えます。
ダブルバインドの環境に居続けると、どのメッセージを受け取ればよいのか分からなくなり、何を信じるべきか判断できなくなってしまいます。また、時間が経ってから相反する言葉を投げかけてくる場合にも注意が必要です。冷たい言葉をかけてきたと思えば、しばらくして甘い言葉を向けてくるなど、受け手を混乱させる言動はダブルバインドの可能性を高めてしまいます。
このように言動が二転三転する相手とコミュニケーションを取り続けると、疲労感を覚えやすくなります。その結果、ストレスが蓄積し、自分自身の心身の変化に気づくことが重要になります。たとえば、食欲不振、職場に行くことがつらい、その相手に会うことが負担になるなど、さまざまな心のサインに目を向けてください。
また、ダブルバインドの環境下では相手との関係を安定的に築くことが難しくなるため、その人といると混乱しやすく、不安を抱きやすいと感じることもあります。
ダブルバインドから抜け出すためには、自分自身の心身の状態に注意を向けると同時に、相手の言動にも意識を向けることが重要です。どのようなコミュニケーションが行われているのか、関係性を振り返ることも必要でしょう。そこから矛盾点に気づくことができれば、ダブルバインドから抜け出すための第一歩となります。
(医療コミュニケーション協会 須田)



















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