「愛のケア」の真実

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「愛のケア」の真実

日野原重明氏は生前、医療や看護に関し、さまざまな視点で発言をされていました。その根幹にあるのは「こころの医療」「こころの看護」の大切さです。「患者に寄り添い、親身になって世話を施し、助けになる」という医療者の本質を、私たちは常に忘れないようにしたい、というメッセージに他なりません。
さて、実際の医療現場の中心にいる医師や看護師は、その美しいメッセージと現実とのギャップにどう折り合いをつけていけばよいのでしょう。

「やさしく愛情を込めたケア」

日野原氏が提唱していたのは「テンダー・ラビング・ケア」(略してTLC)の考え方で、
日本語に直訳すると「やさしく愛情を込めたケア」です。主に終末医療に対する緩和ケアについての考察で、具体的な所作として、「患者の側に付き添い、手や腕を軽く握り、やさしく手足をマッサージし、婦人の場合は髪をとかす」などと記されています。

そして、日野原氏はこう述べています。
「愛する者(家族や医療関係者)の心のこもった優しいケアを受けつつ、永遠の眠りに入ることができれば、長い苦しみの後でも、決して孤独ではなく有終の美の中に人生を終えることができるのです」

さらに、こうも・・・
「人生の終わりに、優しい真の愛を提供できた。そんな思い出は、残された者への魂の救いとなり、死別による悲嘆から早く解放される助けとなるものと思います。愛を提供する人と愛を受ける人の間にはテンダー(やさしい)な、心にしみる愛の血が流れており、それが両者の魂の救いになるのではないかと思います」

美しすぎる医療者の理想

日本赤十字看護大学名誉教授の武井麻子氏は著書の中で、この日野原氏のTLCの考え方を次のように評しています。

「(この日野原氏のTLCの考え方は)つまり、『優しい真の愛』の見返りは、『魂の救い』というわけです。無償の愛は救われる。『魂の救い』がその報酬というわけです。医療の現場で、いつもこのようなうるわしいギブ・アンド・テイクの関係が成り立っていれば、看護師の魂はいつも救われていて、罪悪感などにさいなまれることもなく、聖女のような穏やかな微笑みをたたえながら仕事をしていることでしょう。そのはずです。そうあってくれればよいと思います」

あまりにも美しすぎる医療者の理想。現実と比較し、そこで生まれる医療者の困惑を見据え、武井氏はさらに次のように語ります。

「病気でやつれ果てた肉体、見るも無残な病変や傷口、独特の臭い、血液の混じった浸出液、そして耐えられない痛みとだるさ・・・こうした悲惨な現実を直接目にし、触れ、ケアするのは、看護師としても勇気のいることです。自分の体調が悪いときなどは、正直言ってつらく、これが仕事でなければ逃げ出したいと思うことさえあるのが現実です。そんな気持を抱きながら、表面上はそれを押し隠してやっている自分の行為を『愛』などと呼ばれると、自分がなんだか人をだましているような気がするのです」

武井氏は、看護師がTLC的な概念、「無償の愛」といった愛情規範に縛られ、どうしてもそのような心持ちになれなければ自分は看護師失格である、と密かに悩んでいる看護師は少なくないと指摘しています。

こころのケアの向けどころ

今、医療・看護の在り方としては、医療財源の抑制を旗印に、ますますスピードと効率性が求められてきます。入院日数縮小、入院治療のオートメーション化が加速され、医療者はじっくりと患者さんと向き合うことができない中、一方で「ホスピタリティ」の実践を余儀なくされる。つまり、「効率」と「共感」が共に重視されなければならないという難しい局面に立たされています。今後医療者はどのような態度で患者さんに接していくべきなのか、という問題に否応もなく向かい合わなければならないでしょう。

看護に焦点を絞ってみると、もはや一人ひとりの患者さんに寄り添ってケアをしていくという看護の状況は病院経営上あるいは医療制度上、成り立たなくなってきました。常勤スタッフの数はぎりぎりまで抑えられ、次々と送られてくる患者を“処理”し、退院させ、患者の顔を名前も覚えられないままに次々と医師から出されるオーダーの処理作業に追われ、医療事故だけは起こさないよう神経をピリピリさせる毎日です。

このような環境で働く看護師たちに、「患者との共感が大事」と言ったところで、どこまで実践できるのか、純粋に患者との共感を願うこころの部分と実際的な看護・介助に追われる毎日業務との葛藤の中で、何とか平静な心とモチベーションを保って仕事をしていかなければならないのが現実です。
現状の医療状況は、ある意味で牧歌的なTLCの概念など入り込む余地がないような気がします。

今、私たちは「こころのケア」は患者のみならず、医療者にも同じように向けなければならないと考えています。多彩なコミュニケーションのあり方を紹介し、手法の実践から、“自分が自分であるため”であることを支援するコーチングやカウンセリング、NLP等のメニューも数多く用意しました。ぜひ、お気軽に一度ご参加いただければと思います。
(医療コミュニケーション協会 須田)

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