改めて「接遇」の大切さを想う

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改めて『接遇』の大切さを想う

一時期、マナーのルールを制度化した、マニュアルありきの接遇研修が多くの医療機関でも導入されましたが、現場にそぐわず、いまだ定着するには至らないケースも多いようです。何が問題なのか。どうすれば接遇力を上げ、患者から信頼される医療機関になれるのか。今回のコラムでは、当協会の接遇イノベーションともいうべき、これからの「接遇」のあり方について述べていきます。

マニュアルレイバーとヒューマンワーク

一般的に医療に関わる業務は、定型・反復型であるマニュアルレイバーと、非定型・創造型のヒューマンワークに分けることができます。マニュアルレイバーでは担当者の裁量の余地は小さく、ヒューマンワークにおいては裁量の余地が大きいとされます。
 
ヒューマンワークでは、個々の課題や状況の変化に対して職員が独自に工夫したり、新しいやり方にチャレンジしながら柔軟な対応をしていくことが、成果を向上させるためには不可欠となります。ルールは最低限でよく、実現させるためには職員が自ら判断し、自らの責任のもとに遂行していくスタイルが適当であるとされます。「職員の総意工夫=裁量と自主性」が強く求められることがタスクとしての特徴となります。
 
一方、マニュアルレイバーでは事情がまったく逆となります。日常の定型的業務を規定通りこなすことが必要とされており、柔軟な対応が求められることは少なく、したがって職員に大きな裁量の余地を与える必然性は存在しません。文字通り、マニュアル通りに1人ひとりがルーティンをこなしていくことが組織の生産性の極大化につながるのであり、仮にある職員が自主性と創意工夫を発揮して新しいやり方を実践したりすると、全体のフローが乱れ組織全体ではかえって生産性が低下してしまうこともあります。
 
組織全体の生産性の低下は医療機関にとっては避けたい事態ですから、接遇改善業務に関しては多くの医療機関ではマニュアルレイバーをタスクとして組み入れました。すなわち、マニュアルを作成し、均一的なルール化を施してルーティンに組み入れるという方策を取ったのです。具体的に言えば、マナー対応策を中心に「すべての患者に対し、こうしましょう」といった教育を行い接遇向上を目指したのです。
 
しかし、マニュアルレイバーの「接遇」は、患者や家族にとっては、必ずしもフィットしたとは言えない事態が多く発生しました。
 
マニュアルレイバーとしての接遇向上施策は、医療従事者に「ただでさえ忙しくて余裕がないのに、さらに負担を強いられる」とのマイナスイメージを持たれることが多いことが、次第に明らかになりました。そこで、多くの医療機関で、マニュアルレイバーから、ヒューマンワークへの転換が見直されるようになったのです。

マニュアルレイバーからヒューマンワークへの転換

ヒューマンワークの具体的な方策としては、職員自らが楽しみ、気づき、工夫することを主眼に置いた「接遇」の方法を採り入れることが重要となります。細かなマナーも、マニュアルも、標語も、チェックリストも、基本的には必要ないというのが原則です。決めごとによって規制する必要がないので、職員がイキイキと実践できる、職員同士が気持ち良く連携し、上層部や接遇委員が気兼ねしながら職員に接遇向上を促すという場面もなくなる、という考え方です。
 
この方向性は、まさにマニュアルレイバーからヒューマンワークへの転換というべき事象ということになります。統一化したマナーを遵守していくマニュアルレイバー的な旧来の方策から脱却し、職員個々の裁量を重視したヒューマンワークとしての「接遇」によって、患者には癒しと安心を、職員にはやりがいと誇りをもたらします。
 
ただし、一般的なマナー研修やマニュアルが一切必要ないということではありません。接遇改善の一つのコンテンツとして採り入れると理解すれば良いのではないでしょうか。

接遇における傾聴

ヒューマンワークにおいて、「心の交流」を発生させる原動力となる手法の一つに「傾聴」が挙げられます。コーチングのベーシックなスキルとして定着しつつありますが、「接遇」における傾聴とは、すなわち患者の話を遮ることなく最後まで聞いてあげることです。
人との交流、コミュニケーションにおいて、「心の交流」=「愛情」を実感できる最も基本的な関係性は受容と承認です。この原則を踏まえると、自分に気持ちを傾けてくれる愛情豊かな人間だという印象を抱いてもらう最も基本的で有効な手法が、受容と承認の象徴である傾聴であると言えるしょう。
 
暖かな「接遇」が必要な場面で、いかにもマニュアル的なクールで客観的な対応をされたら、患者は自分の気持ちを無視されたように感じ、医療従事者から突き放された感覚を持ってしまい、とても愛情を感じることはできません。しかし、理不尽な要求であっても医療従事者が真摯に耳を傾け、共感してくれれば、たとえ願いが聞き入れなくとも患者は納得するものです。
 
より良い「接遇」は、患者のためにやっていることでも、結果はすべて自分にフィードバックされます。働く喜び、生きがいとなってすべて自分に帰ってきます。「接遇」は、単なるビジネス上のサービスではなく、心の表現であり、生き方の問題なのです。
(医療コミュニケーション協会 須田)

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