コーチングやカウンセリングは、「相談に回答すること」ではない
私たちはコミュニケーションの領域を専門に扱っていることから、よく、さまざまなステークホルダーから「相談」を受けます。「先輩からパワハラを受けているんですけれど、どうしたら良いでしょう」「患者さんの対応が上手くできないんです。何かアドバイスをもらえますか」「親友だと思っていた人から裏切られてしまいました。もう付き合わない方が良いのでしょうか」等々。
しかし、私たちはほとんどの場合、そのような「相談」に回答することはしません。
お悩み相談ではない
これらの「相談」は、言ってみれば、新聞や雑誌で見かける「お悩み相談」に近いものです。「私は今、○○で困っているので、それを解決する方法を伝授してください」というお願いです。
コーチングやカウンセリングは、本質的に「お悩み相談」とはまったく異なるものです。
対極に位置すると言っても良いかもしれません。
コーチやカウンセラーは、パワハラをたちどころに解決するようなベストな方法を知っているわけではありませんし、患者さんの対応を上手にするにはこうするべきですよ、などの知見があるわけでもありません。
コーチングは、問題を解決するべくアドバイスをするのではなく、傾聴や質問を通して相談者に気づきを促し、相談者自身が回答を導き出すのを援助する役割を果たします。
また、カウンセリングは、相談者の心の変化を助けるのが役割です。
解決のアドバイスをすることはしない
ある雑誌に載っていた「人生相談」の事例を見てみましょう。
「彼と付き合って1年なのですが、最近、彼の嫌なところがとても目につくようになりました。お金にだらしなく、自分勝手で、私の前でも平気で他の女性に電話をしたりします。別れようと思うのですが、なかなか決心がつきません。そんな人なのですが、優しいところもあり、いわゆるイケメンで、友達からは『あんなカッコいい彼氏はなかなか見つからないよ。絶対に分かれない方がいい』って言われます。毎日、毎日、どうしようかと、そればかりを考えています。一体どうしたらいいでしょう」
その「相談」に対し、吉本の著名なお笑い芸人がこう回答します。
「あなたは、彼に自分の理想の男性像を求めすぎているような気がします。周囲を見渡してください。大多数は彼みたいな男ばかりですよ。僕だって、お金にだらしない面もありますし、自分本位にならないと気が済まない性格ですし、ラインやフェイスブックで繋がっている女友達はいっぱいいます。大事なのは、あなたが彼を真に大切に想う気持があるかどうか。彼は自分のことを本当に好きでいてくれるあなたの前だからこそ、無防備で生の自分をさらすことができているのだと思います。嫌なところばかりではなく、いいところもたくさんあるはず。優しくてイケメンなんて、これ以上望むべくもない『いいところ』じゃないですか」
相手の弱点ばかり見るのではなく、その弱点を補って余りある長所を改めて見直してみてください、というアドバイスです。
なるほどと思う反面、コーチングやカウンセリングの視点から見れば、このようなアドバイスをすることは、まずありません。
解決するのは相談者自身
たとえば、カウンセラーならば、この相談者の「相談」を受けたとき、どのような応対をするでしょうか。
まず、この女性の感じている「心の苦しみ」に視点を当て、その苦しみの深さや質を理解するよう努めると思います。できる限り、相手の苦しみをあたかも自分のことにように感じる努力をする、それこそが「共感」であることを知っているからです。
話す相手に「共感」されていることで、相談者は正直に自分の内面と向き合えるようになり、自分が無理解の彼と付き合うことで、どれほど無理な生き方をしているのかを感じ取るようになります。やがて、心の葛藤から自由になり、より建設的に生きる方向へ自ら踏み出すことができるようになります。そして、彼とこのまま付き合うか、別れるかの判断が、自分の中で自然に浮かび上がってくるはずです。
成長を促すこと
人がコーチングやカウンセリングを受ける意味合いは何でしょうか?
人間は常に成長するものだ、という考えが根本にあります。年齢や経験などは関係なく、人間は永遠に成長ののびしろがある、その成長ののびしろに気づきを与える支援をし、寄り添って行くというのが、コーチングでありカウンセリングであるというのが私たちの考え方です。
相談者の問題を解決してあげるのではなく、その苦しみや戸惑いの原因である心のあり方を相談者自らが発見し、見つめ直すことで、問題を自らが解決に導いていく。それが解決した時に、人間は確実に一歩成長するのです。
(医療コミュニケーション協会 須田)
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