誤った「傾聴」は逆効果を招く

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誤った「傾聴」は逆効果を招く

当協会では、医療従事者の方々に対してさまざまな「コミュニケーション改善」のコンテンツを用意していますが、そのどれにおいても、ベースとなる基本スキルとして「傾聴」を学んでいただくようにしています。
しかし、傾聴は「耳を傾けて真摯に聴く」という字面通りの解釈では済まない、非常に難しい所作であることを理解する必要があります。

まずはアサーションを心がける

私たちのセミナーや研修では、「自己表現をする際、自分も相手も大切にすることを心がける」、それをコミュニケーションの基本スタンスとして、繰り返し受講者の皆さんに伝えています。
一方的なこちら側の主張を押し付けるのではなく、相手の言い分も十分に聞く。その内容が自分の考えや主張と異なっていても受け入れる。その上で自分の考えを伝える。そのような姿勢を「アサーション」と言いますが、相手を受容し、自分の考えや気持ちに素直になり、正直に自己主張する。つまり、お互いに認め合うという相互尊重の心構え、相互理解を深めようというアグレッシブな向き合い方が重要だということです。

1970年にアメリカで「Your Perfect Right(あなたの完全な権利)」というアサーションのバイブルというべき書籍が刊行されました。筆者のロバート・E・アルベルティとマイケル・L・エモンズは、この中で、なぜアサーションが自己表現の最も適切な方法であるのかを、さまざまな角度から述べています。

一つの特徴的な知見として、対人関係のあり方を、攻撃的(自分尊重)・非主張的(他人尊重)・アサーティブ(自他尊重)の3パターンに分け、仮に自分の対人関係のあり方が、アサーティブにならず、攻撃的あるいは非主張的に偏っているのであれば、冷静に自己を見つめ直し、改善点を折り下げていくことの重要さが挙げられています。

相手を思いやり、どんなにやさしく接していても、少しでも相手をこちら寄りにコントロールしたり相手の思いを操作しようという意志が働けば、それは「攻撃的」である。逆に相手に必要以上に同調し、おもねる態度を見せてしまえば「非主張的」な接し方となってしまう。このことは、「共感」「共生」といったコミュニケーションのあり方の基本が、決して「形」から入るものではないことを示唆しています。

傾聴の難しさを理解する

アサーティブなコミュニケーションを実現するためには、相手の主張もしっかり受け止めなければなりません。そのためには「傾聴」の姿勢が求められます。
しかし、冒頭に示したとおり、傾聴は「真剣に相手の言うことに耳を傾ける」という姿勢だけのことをいうのではありません。「真剣に聴く」を、ポーズつまり形から入ったとしても、話し手にはすぐにそれが形だけであることが伝わり、かえって気持を閉ざしてしまいます。
傾聴とは、「話し手の思いをあたかも自分のことのように親身になって聴く」こと。相手の言う主張や考えがこちらの価値観に合う合わないの尺度で聴いてはいけない。この2つが原則です。要は話し手の「いま、ここ」に存在する全人格を丸ごと受け入れ尊重することが求められます。それができていればいるほど、話し手は自分の思いを心から聞き手に委ねることができ、聞き手から共感・共存されていることを自覚します。

ある看護師長と看護師の対話

傾聴の事例をひとつ挙げて検証してみましょう。
看護師のAさんが、看護師長のBさんにこんな相談をしてきました。
Aさんは元気がなくうつむきがち。話し方にも元気がなく見るからに沈みがちです。眼には涙も滲んでいます。
「患者さんにうまく話しかけられないんです。どうしてもつっけんどんになってしまって。ナースコールがあって私が行くと、患者さんも嫌な顔をするような気がして・・・」

B看護師長の応答は次のようなものでした。
「うまく話しかけられなかったといって、落ち込む必要なんかないって。私もあなたぐらいの時はそうだったんだから」そう、笑いながら言ったのです。
A看護師の気持を楽にさせようとする意図が感じられる応答です。でも、A看護師はこれで「そうですね、あまり気にしないようにします」とすぐに気持が吹っ切れるような状態になったでしょうか。涙ながらに訴えるくらいですから、おそらくA看護師は、自分が発した相談の言葉よりもずっと深く傷つき、悩んでいたものと想像できます。
この応答では、「やはり、わかってもらえない」との絶望感を抱いてしまい、もうB看護師長には相談する気がしなくなる可能性が強いと思います。

仮にB看護師長の応答が次のようなものであったらどうでしょう。
「患者さんと上手く対話ができなくて、無理に話そうとするとつっけんどんになってしまうのね。だから、これからも患者さんと密に接することができないんじゃないかと不安になってしまう・・・」
このような反復の言葉を、真剣な眼差しでA看護師と同じように静かな口調によって語りかけてきたらどうでしょう。A看護師は心を開いてさらに胸の内を話したくなるのではないでしょうか。
このあと、B看護師長は「あなたを理解したい」との態度を崩さず、A看護師に徹底的に寄り添って援助をします。
A看護師にとっては、自分の存在を否定することも評価することもせず、変えようとすることもなく、無条件に受けいれてくれる人がいることは、大きな支えになるはずです。

このようなB看護師長の向き合い方・態度が、私たちの考える「傾聴」のあり方なのです。

また、アサーションに関しては、当コラムの「コミュニケーションのストレスから解消されたい!医療現場で使えるアサーションとは?」に活用事例などが詳しく載っています。ぜひ、併せてお読みいただけたらと思います。(医療コミュニケーション協会 須田)

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