「認知のゆがみ」が過度なストレスを呼び込む
コロナ禍の影響もあり、日常のさまざまな場面でストレスを感じる機会が多くなっていると感じます。ましてや、直接的、間接的問わず感染クラスターの危険性にさらされている医療機関で働く皆さんのストレスは測り知れないほど大きいのではないでしょうか。
ストレスとは?改めて定義すると・・・
ストレスがかかった状態とは、一般的な定義としては、「何らかの外的な刺激により、身体や心にひずみが生じた状態」とされています。とすれば、ストレスは平穏な日常が侵される要素(原因)ということになります。
そう考えると、我々が日常生活を営む上で、ストレスはそこら中に存在しているわけですが、その度合いが弱ければすぐに平穏を取り戻せるものの、強ければ壊滅的なほどのダメージを受けてしまうこともあるという怖いものと考えることができます。
「身体や心にひずみが生じた状態」であるわけですが、心の反応としては、「怒り」や「不安」「悲しみ」「敵意」「屈辱」などのひずみが、身体の反応としては、「心臓がどきどきする」「胃が痛くなる」「冷や汗が出る」などのひずみが現れます。
しかし、一方である種のストレスは人生を豊かにする潤滑油のようなものだとも言われています。「恋の告白」とか「一世一代のプレゼン」とか「昇進試験」とか、それらを行う前日はまさに胃が痛くなるほどのストレスを感じるとしても、苦労に見合う物を手に入れられる可能性が高いので、まさに人生が豊かになるその過程としてのストレスということになります。
「認知のゆがみ」とは?
精神医学や心理学の分野では、認知のゆがみから生じるストレスに注力しています。「あの上司は、陰で私の悪口ばかり言っている」「電車の中にいる人全員が私を見て笑っている」といった例は、明らかに「認知がゆがんでいる」状態ですが、そのような病的なレベルまで行かなくても、皆さんの中でも気づかないうちに「認知のゆがみ」が生じていることがあるはずです。あなたが、「あの人、いつも私の意見に反対する。相当、私のことが嫌いなんだろうな」と感じているとしましょう。でも、実際は「あの人」はあなたを嫌っているどころか、ちゃんと自分の考えを表明するあなたに一目置きつつ、自分の思いをあなたに聞いてもらいたいから、事あるごとに対立意見を出しているのかもしれません。
あるいはあなたが、自分の上司の物言いにストレスを感じているとすれば、「医療者は常々こうあってしかるべきだ」と事あるごとに言う上司の「認知のゆがみ」に辟易しているからかもしれません。
このように自分、あるいは身近にいる人の「認知のゆがみ」がストレスを誘発していることは、結構多いはずです。
ストレスに対処する
ストレスや鬱症状、パニック障害などの改善の方法として「認知行動療法」という大変有名な治療法あります。
「個々の人物が抱えるストレスを、本人の認知や行動を変革させることで解決に導く」というのが「認知行動療法」の主旨ですが、その考え方を、日常的な仕事や生活の場で応用したのが、コーピングという手法です。英語のCope(対処)の現在進行形(対処する)が語源となります。
コーピングを行う際に、まず重要なこととして、「自分にはどのようなストレスがかかっていて、そのストレスはどの程度自分に影響を与えているか」を客観的に把握することが挙げられます。
「医療はサービス業でもあるのだから、接遇は完璧にこなさなければならない」と考えている看護師さんは、ぞんざいに患者さんと対峙している同僚を見るとストレスを感じてしまうでしょう。
また、「自分だけが師長からいつも小言を言われ、嫌われている」というのは、ストレスの原因として若いスタッフから挙げられる訴えの中では、大変多いのではないかと感じますが、「自分だけが師長からいつも小言を言われている」というのは、認知のゆがみからくる過剰な思い込みかもしれません。
以前、若い看護師とコーチングのセッションをしているときにそういう訴えがあったので、師長にその事を伝えると、「ええっ!彼女だけに小言を言ってるなんて考えたこともないし、嫌っていることもない」と驚き顔をしていました。
「あの看護師は、かならずミスを犯す」
「みんな私のことを嫌っているんだ」
「上司嫌われたら、もうこの病院で働けない」
「病院スタッフは何よりも礼儀が大切。患者さんはお客さんなんだから礼儀正しくしようね」
ストレスに立ち向かうためには、まずこのような皆さんの「認知のゆがみ」「認知のくせ」をまず把握することから始めましょう。
そして、その対処の方法として具体的なコーピングの技術を覚えると、ストレスが改善し、本来皆さんの持つ潜在的な能力が高まっていきます。
具体的なコーピングの方法に関しては、次回の当コラムで詳しく紹介していきます。
(医療コミュニケーション協会 須田)
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