ストレスに対応するコーピングの進め方
私たちは医療スタッフのコミュニケーションに関する悩みや相談を受ける機会が大変多く、目の前の相談者のストレスが並大抵のものではないと感じることも多々あります。そして、大抵の場合、相談者はストレスを内に抱え込んだまま悶々とした日々を過ごし、精神的な重圧感に必死に耐えています。さて、果たしてストレスは、「耐えるしかないもの」「対処困難なもの」なのでしょうか?
ストレスを感じる感じないは、人によって大きな違いがある
さまざまな面談を通して、私たちはストレスへの耐性は人によってかなりの違いがあることが分かってきました。
まず、A看護師は、元来の楽天的な性格から「嫌なことがあっても1週間ぐらいで立ち直れる」のですが、B事務職は「ずっと引きずっていて、1か月以上心が晴れることがない」といった具合に、その人の「変えようのない」性格によって、ストレスの耐性は大きく異なってきます。
また、若い頃はうじうじ悩んでいたことが、経験を積み人生の裏表をいろいろ見聞きした年頃になると、「少しぐらいの事では動じなくなっている」という、「人生経験がストレス耐性を育む」こともあるでしょう。さまざまな修羅場を経験することで、レジリエンス(折れない心)が鍛えられることは、皆さんも経験上納得できることなのではと思います。
コーピングを知ろう
心理学の分野では、ストレスをコントロールし、「認知のひずみ」を改善することを非常に重要視しています。そして、我々の分野でも、日頃行っているコミュニケーションの改善の施策、たとえばコーチングなどは、コーチがストレスを抱えていると上手く機能しないことが明確となっています。
ストレスへの対処は、「コーピング」という技術によって軽減できます。外部からの何らかの刺激によって受けた傷や心身のひずみを、何らかの「行動」や「意識の変革」によって元に戻そうという試み、それがコーピングです。
「怒り」を鎮めることが第一
例を挙げてみましょう。
ある病院の事務課に所属するCさんは、コロナ禍の影響もあり、毎日が大変忙しく心身共に疲れ切っています。これは、上司のDさんが、なぜか自分ばかりに面倒な仕事を押し付けるためだとCさんは考えています。今日もまた、Dさんが無理難題を押し付けてきました。「わかりました」と答えたものの、次第に理不尽だと思う気持ちに怒りが高まってきて、爆発しそうになっています。
あなたが、Cさんの立場だったら、どのような行動を取るでしょうか?
辞表を胸のポケットに忍ばせつつDさんに言いたいことを言う、との直接的な行動を取る人もいるかもしれません。しかし、その後に起こりうる事態を想像すると賢明とは言えないような気がします。Dさんが反省し、Cさんに対する態度を改める可能性は低いのではないでしょうか。
そこで、コーピングを試してみるとどうなるか・・・
コーピングのコープ(COPE)は「対処する」「うまく処理する」という意味があります。
まずは、「感情的にならないこと」。これが原則です。怒りが昂っている状態というのは、相手と対立姿勢になっているということです。怒りの源泉は「対立」です。この事例の場合、対立する相手は上司です。ずっと対立姿勢のままでいれば、就業時間中、怒りが解消されることはありません。そんなCさんの精神状態をDさんが気づかないはずありませんから、二人の間の溝はますます深まるばかりです。
まずは、対立姿勢を改め、怒りを鎮めて俯瞰的に今の状況を眺めてみる。これがコーピングの第1歩です。
それ、あなたの被害妄想では?
俯瞰的に自分の置かれている状況とは、自分が感じている理不尽さを第三者の視点で眺めてみるということです。もしかすると、面倒な仕事を押し付けられているのは、Cさんだけではないかもしれません。
もし、周囲の人たちもかなりの無理を強いられ忙しくしているのが見えれば、「そうか。みんなも結構大変なんだな」と感じることができ、自分の被害妄想だったのかも、との反省点も見いだせるかもしれません。
また、やはり無理な仕事を押し付けられているのは自分だけだったと改めて認識したとしても、怒りを鎮めることができれば、「もしかするとDさんは自分に期待しているから、他の者ではできない難しい仕事を依頼してくるのかもしれない」と前向きに考えることができるかもしれません。
気晴らしもコーピング
ストレスを軽減させるために、“特別な気晴らし行動”を起こすというのも、コーピングの手法として大いに活用することをお勧めします。
たとえば、「まっすぐ帰らずにカフェに寄って美味しいコーヒーを飲む」「一人カラオケを楽しむ」「子供と遊ぶ」「一番高いケーキを買って帰る」など、気分転換的な行動がこれに当たりますが、日頃から「自分の気晴らしリスト」を持ち歩き(少なくとも50ぐらいはリスト化してください)、「今日は上司に怒られむしゃくしゃしているから、リストから『スポーツジムで汗を流す』をピックアップし実行しようと決める」などというコーピングも、ストレス改善にはかなり効き目があります。
(医療コミュニケーション協会 須田)
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