「白衣の天使」という窮屈さと危うさ

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「白衣の天使」という窮屈さと危うさ

急進的にさまざまな発展を遂げるこの現代においても、医療や看護の現場ではまだまだ保守的な感受性が生きています。言い換えれば、「医療」や「看護」に対する一般市民や医療従事者の見方・捉え方は、高度な医療・看護技術の進展とは裏腹に昔からあまり変わっていない、とそのように思えます。
その中で、最もあいまいでいながら定着性の高い固定的な見識として、「看護師=白衣の天使」という言葉(捉え方)があります。その看護師の理想を謳ったキャッチフレーズは、現実的な医療現場の看護業務とは隔離されたイメージで、「献身的に奉仕する無垢な魂の存在」として21世紀の今でも、ほとんどの人の心の中に程度の差はあれ、息づいているのではないでしょうか。

昔から続く確固たるイメージ

当事者の看護師、たとえば病棟や外来に勤務する100人の看護師に「あなたは白衣の天使ですか?」と質問をしたら、どのような反応が返ってくるでしょうか。ほとんどの人が気恥ずかしさを感じるのと同時に、「困惑」と「あきれ顔」の反応、もしかすると、そんな風に私たちをイメージしないで欲しいと「怒り」を表す人もいるかもしれません。

それもそのはずで、「白衣の天使」は当の看護師が言い出したフレーズではなく、看護の受容者が看護者に対して「私たちは、あなたたち(・・・・・)が(・)この(・・)よう(・・)に(・)あって(・・・)欲しい(・・・)のです」という、理想化したイメージを言葉にしたものだからです。

この「理想化したイメージ」は、普通の人が眼をそむけたくなる悲惨な医療の現場にも、不治の病にかかり死の恐怖にさいなまれている患者の元へも出向き、公平な愛を捧げ、精一杯の奉仕を厭わない、それが看護師というものだ、という固定概念がベースにあります。これは、ナイチンゲール憲章にも謳われている「われは心から医師を助け、わが手に託される人々の幸のために身を捧げん」というフレーズとほぼ重なります。

このように、昔から看護師は、看護されるあらゆる人々から、多かれ少なかれ「聖女」のイメージで見られることを余儀なくされてきました。それゆえ、看護師は寝たきりの患者の糞尿の世話も清拭も喜んでやり、苛立ち怒鳴り散らす患者へも自愛に満ちた介助を行うという見方をされることになります。
「お前、看護師なんだろう」
「なんだ、その態度は。看護師のくせに」
といった言われなき中傷は、「白衣の天使」のイメージゆえに発せられるものです。

ネガティブな感情を起こすことは罪悪か?

患者にとって、病院は不安と恐怖の場です。社会的な地位が高かろうが低かろうが均等に扱われ、自由は束縛され、基本的には医療者の指示に従わなくてはなりません。
そのような渦中にいれば、不満や怒りも生まれやすくなります。そして、無遠慮に負の感情をぶつけることのできる相手は医師ではなく、たいがいは看護師です。

しかし、看護師と言えども現実的には上からものを言う患者に対しては腹も立ちますし、下の世話をするのを喜んでやっているはずもありません。アメリカの看護教育者ヴァージニア・ヘンダーソンは、ひとりの看護師が人間である以上、患者に対してネガティブな感情を持つことは不思議でも不謹慎な事でもないとした上で、「看護相互作用は、患者の行動に対する看護師の情緒的、主観的な反応とまったく切り離すことができない」と述べています。
しかし、現実には、自分のその時々の感情をストレートには発散できない。それが辛いところなのです。

義務感と絶望感のはざまで・・・

若手の看護師が「白衣の天使」もしくはナイチンゲール憲章の呪縛、つまり「患者さんの怒りも、愚痴も、理不尽な要求も、何でも受け入れなければならない。なぜなら、私はプロの看護師なんだから」という義務感を強く持ちすぎていた場合、もし、それが果たせなくなった時の挫折感を、上司や先輩看護師は注意深く見守らなければなりません。経験を積めば積むほど「何を言われても気にしない。適当にやり過ごす」ノウハウが身につくものですが、新人のうちは患者の理不尽な要求や怒りを上手くかわしたり、やり過ごしたりするコミュニケーションの技術は持ち合わせていません。

若く経験が浅い看護師ほど感情的になったり、情緒が不安定になったりする傾向は強く、何気なさを装ってはいても、内心では自己嫌悪に胸が張り裂けそうになっていることに想像を巡らせることが必要です。「この患者さんは末期でとても辛い思いをしているのだから責めてはいけない。悪いのは怒らせてしまった自分の方だ」という自責の念が高じると、ある日突然「心が折れる」(break down)状態になることも珍しくありません。
(医療コミュニケーション協会 須田)

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