コミュニケーション不毛のカリスマ経営者
某医療法人の理事長兼院長はカリスマを絵に描いたような人で、とにかく自分の思い通りに強引に事を進めるタイプです。
院長も高齢になってきたので、そろそろ後継者を考えなければいけなくなってきました。息子はアーティスト志向で医師には向いていません。娘は医師なのですが、婦人科を開業していて、現院長の跡を継ぐのは難しいという判断です。
従って、次期院長は係累の線はないという結論に達しました。
そこで、名の知れた大病院から選りすぐりの逸材を3人、一本釣りで次期院長候補として採用しました。
ところが、結果はその三人のうちのだれも跡を継ぐことができず、3年後には全員が退職してしまいました。
なぜ、そんなことになってしまったのでしょうか。
問題はカリスマ院長
とにかく現院長はすべて自分の思い通りにならないと気がすまない人でした。
院長抜きの幹部会議でいろいろな事案を決めても、院長にお伺いを立てると「ダメ」の一言でボツになる。あるいはまったく違う方向にひっくり返される。
「会議に院長も出てもらってください」と進言しても出てこない。出てこないのに、会議での決定事項を平気で覆す。
大病院から転職してきた将来の院長候補の3人も、もちろん院長へ意見を述べます。しかし、「君がいた病院とウチとは違う」と取り合わない。明らかにおかしいと思う判断でもお構いなし、「おれが右だと言ったら右なんだ」の世界です。
本当に、このような独裁者のような経営者がいるんですね。
結局、大病院から来た3人の後継者候補は「私たちがいても意味がないですね」とため息をついて去って行ったというのが顛末です。
私もコンサルタントとして入っている限りはさまざまな意見を言い、アイデアを出すのですが、それもことごとくひっくり返されます。これではコンサルタントしての存在意義が見えないということで、私の方から契約打ち切りをお願いしました。
院長はとにかく、「なんだかんだ言う奴はいらない」という判断をする人で、結局は後継者候補として病院のマネジメントを託された3人の幹部も去り、コンサルタントも去りで、元の木阿弥、病院は以前と全然変わらずに院長のなすがまま、という状態です。
やはり、そのような経営状況では業績も下がっていきます。
将来、大きな可能性を秘める病院なのでもったいないな、とは思うのですが・・・
このような残念な例も、医療コンサルタントを長くやっていれば一度や二度は遭遇するはずです。
愛すべきカリスマ社長
もう1つ、印象に残った中堅医療機器メーカーのカリスマ社長の例を紹介しましょう。
その社長を仮にCさんとします。Cさんの会社は、関西を中心に各病院への業務システムの開発・導入をメインビジネスにしていますが、他にも多角的に小規模のビジネスを展開していて、業績は安定しています。
Cさんは、システムの開発を長年やっていたということもあってか、人の考えないアイデアがよく閃く人で、私と話をしていてもよく独自のアイデアを披露します。
アイデアを披露するぐらいまでなら良いのですが、問題はそのアイデアは絶対に「儲かる商売になる」と盲目的に信じ込んでしまうという点です。
「これ、確実にイケるで!」
となると、その実現に向けて突っ走ってしまうのです。
しかし、ジャストアイデアというものは、いくら素晴らしくても、さまざまなリスクを検証し、考えられるいくつかの障害をクリアさせて始めて実現するもの。
ところがその社長にかかると、アイデアが閃いたら、即、実用化ということになります。カリスマ色の強い社長ですから、社員たちも何も言えません。
また始まったかと傍観するしか手はありません。
私も確かにアイデアは面白いと感心することもあるのですが、とても実用化は難しいだろうなと思う場合はコンサルの立場でいろいろ質問をし、少し冷静になってもらうよう努めます。
「これ、現実的にだれがどんな場面で使うんですか?」
「だれって、いっぱいいるやろ。困っている病院関係者は多いはずや」
「患者さんからその金額を徴収して、採算が合うのですか?従業員の給料を差し引いたらいくら残るんですか?」
「わからん」
「計画書をきちんと作成した方がいいですよ」
そう言うと、一応は「わかった」と引き下がるのですが、次に会った時、
「この前話したあの製品な、作ってきたで!」
とまあ、全然わかっていなかったことが判明するわけです。
しかし、思いつきですぐに突っ走ってしまうというのはもちろん問題ではあるのですが、逆の見方をすれば、ものすごいバイタリティがあるということでもあるのです。
社長のその物怖じしない盲目的な勢いは、時に信じられない成果を生むことがあります。
「あの○○病院の事務長が、わしのアイデア気に入ってくれた。取引開始や!」
話をよく聞くと、だれでもが名を知っている日本有数の病院の事務長と面談し、「あんたの考えは面白い」と言ってくれたということです。本当に取引が実現できるかどうかは未知数とは思いますが、ともかくも、機器類の購買決定者にそう言わせたのは事実で、そのアグレシッブな直接行動には正直頭が下がります。
私にとっては、逆に学ぶことの多い、愛すべきカリスマ社長です。
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